「払腰」　

制作年　2021 　映像　6分24秒

山形県西川町にある寒河江ダムは町会議員を勤めていた曽祖父たちが建設を進め1990年に完成した。

 

ダム建設の背景には当時、財政難だった西川町が地域おこしや観光資源の起爆剤としてダムを建設することでその状況を打破したいという思惑と山形市の人口増加に伴う水道不足や電力不足を補うための水力発電という目的があったという。

 

その計画は昭和30年頃から始まったというが、当時はダムによる集落の移転に対する反対意見も根強く完成するまでに50年の月日を要したという。

 

私の柔道の恩師はダム移転に伴い、沈んだ集落の月山沢から私の地元に移転してきた人物である。

 

彼は月山沢にあった小規模僻地校である月山沢中学校の柔道部出身の方で、１つ下の後輩たちがダム建設による廃校の年に全国大会に出場した。

 

そんな彼らの柔道部の活躍を讃える石碑が月山沢に残されている。

 

全国大会に出場したその年に作られたその石碑は、集落の生きていた当時の人々の物語や活躍を現在に伝える貴重な石碑であった。

 

私は恩師から教えてもらった柔道の技術を用いて、彼らが生活していた当時の記憶や集落での話を聞き取り、恩師や曽祖父たちが生活のための対価として国に払ったその集落の歴史を払い戻そうとした。

 

かって中学時代に恩師から教えてもらった払腰を用いて、恩師たちが在籍した柔道部の石碑に払腰をかける。そして、その柔道着を曽祖父の遺影に奉納した。

 

恩師と私を繋げた柔道着を用いて祖父たちが追い払った歴史を払い戻し、恩師という身近な人物たちの記憶を曽祖父の遺影にを奉納することで、

 

故郷を奪ったものである曽祖父と奪われたものである恩師たちの２人の歴史の距離をはかろうとしたのである。